電子インボイス
1.はじめに
2023年10月1日から消費税の仕入税額控除(課税売上から課税仕入に関する消費税を控除)する方式として適格請求書保存方式、いわゆるインボイス制度が導入されます。現状の消費税の仕入税額の控除方式である区分記載請求書等保存方式は、2019年10月1日から2023年9月30日まで実施されますが、区分記載請求書等保存方式からインボイス制度に変わると、適格請求書を交付できるのは、適格請求書発行事業者に限定され、売り手も買い手も交付や保存などに関して、義務が課せられることとなります。また偽りの記載や誤認のおそれのある適格請求書等を交付した行為には、罰則も課せられます。
そのため複数の消費税率の計算はもとより、適格請求書に変わることで必須の記載となる発行事業者の登録番号(T+法人番号等)などを正確に管理していくためにも電子化は欠かせなくなります。
今回は、このインボイス制度と「電子インボイス」に焦点を当ててお話します。
2.適格請求書とは?
適格請求書とは、正確な適用税率や消費税額を伝えるための手段として、次の①~⑥の事項が記載された「請求書、領収書、レシート、納品書等」*を示します。
①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号(Tプラス13桁の法人番号あるいは13桁の数字)
②取引年月日
③取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
⑤消費税額等(端数処理は一請求書当たり、税率ごとに1回ずつ)
⑥書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
*書類の名称は問われません。
3.発行事業者の登録
適格請求書を交付するには、所轄の税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、登録を受けなければなりません。登録申請書は、2021年10月1日から提出可能です。仮に適格請求書保存方式が導入される2023年10月1日から登録を受ける場合は、2023年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。
登録申請書の登録は、課税事業者であることが登録要件になっているので、免税事業者はこの登録申請書を提出することができません。
そのため、例えば課税事業者が免税事業者から仕入れる場合は、仕入税額控除が出来ない*こととなります。免税事業者は、適格請求書の記載要件である「登録番号」を記載できないためです。その結果、インボイス制度になると、免税事業者は、取引内容によっては課税事業者との取引から外れる可能性もあると想定されます。
*ただし現行の区分記載請求書等と同等の事項が記載された請求書等と経過措置の規定の適用を受ける旨を記載した帳簿を保存している場合は、インボイス制度導入後、3年間(2023年10月1日~2026年9月30日)は、仕入税額控除相当額の80%、その後の3年間(2026年10月1日~2029年9月30日)は、仕入税額控除の50%の控除が可能です。
4.適格請求書の交付側(売り手)の義務
適格請求書を発行する側(売り手側)は、取引先が課税事業者の場合、適格請求書を交付する義務と、交付した適格請求書の写しを保存する義務*が課せられます。
*適格請求書の発行が困難な場合として、交付義務が課されないものは下記の通りです。
- 公共の鉄道、バス、船舶による旅客の運送(3万円未満に限る)
- 出荷者が卸売市場において行う生鮮食料品等の譲渡
- 生産者が農協、漁協、森林組合等に委託して行う農林水産物の譲渡・自動販売機による販売(3万円未満に限る)
- 郵便切手を対価とする郵便サービスの提供(ポスト投函による郵便サービスの利用)
またタクシーのように客(取引先)が不特定多数の場合は、適格簡易請求書*(交付先である宛先の会社名等の記載がないレシート等)を発行することができます。
*適格簡易請求書の発行が可能な場合
- 小売業、飲食店業、写真業、旅行業
- タクシー業
- 不特定多数の者に対して行う駐車場業
- 上記に準ずるその他不特定多数の者を対象とする一定の営業
5.仕入(買い手)側の要件(仕入税額控除の要件)
仕入(買い手)側は、一定の事項を記載した帳簿と請求書等の「保存」を行うことが仕入税額控除の要件になります。
(1)帳簿の記載事項(現行と同じ)
①課税仕入れの相手方の氏名又は名称
②取引年月日
③取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④対価の額
(2)保存が必要な請求書等
①適格請求書、適格簡易請求書、適格返還請求書*
②仕入明細書等(適格請求書の記載事項が記載され、相手方の確認を受けたもの)
③卸売市場において委託を受けて卸売の業務として行われる生鮮食料品等の譲渡及び農業協同組合等が委託を受けて行う農林水産物の譲渡について受託者から交付を受ける一定の書類
④上記の①~③の電磁的記録
*適格返還請求書:販売奨励金のように、売上げに係る対価の返還等を行う場合に交付する請求書。
6.電子インボイスとは?
適格請求書を交付する際は、書面の交付に代えて、適格請求書の記載事項を電磁的記録で提供することが可能(新消費税法57の4①⑤)です。一般的に、この「適格請求書の記載内容を電磁的記録で提供したもの」を、「電子インボイス(Electronic Invoicing)」と呼びます。電子インボイスの取引先との「提供方法」は、媒体(光ディスク等)による提供の他、以下が例示されています(インボイス通達3-2)。
①EDI取引*における電子データの提供
②電子メールによる電子データの提供
③インターネット上にサイトを設け、そのサイトを通じた電子データの提供
*EDI(Electronic Data Interchange )取引 とは、 異なる企業・組織間で商取引に関連するデータを 、通信回線を介してコンピュータ間で交換する取引
また電子帳簿保存法の第2条第6項に定義されている「電子取引」が電子インボイスでの取引だと言えます。具体的には、下記の記載が電子取引として定義されています。
電子取引
取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書、その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書、その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。
この電子取引に該当するものは、電子帳簿保存法第10条により電磁的記録の保存義務が課されています。
つまり電子インボイスは、電子帳簿保存法第10条で規定される電子取引に該当し、課税仕入れの適用を受けるためには、新消費税法の保存義務により、当該電子データを保存しなければならないことになります。
7.電子メールで請求書を送付(メールで電子インボイスを送付)する場合
適格請求書を書面で交付するのではなく、メールに添付して取引先に送付する場合は、適格請求書の記載事項と同じ記載要件を記載した書類を送付(添付)する必要があります。書面による請求書の場合、例えば1か月分の納品実績をまとめて1枚の請求書に記載し、取引先に交付することも多いと思います。このような場合の請求書には、1か月間の全て納品明細を記載していることは稀で、大抵は個々の取引年月日(納品番号)ごとの請求額を列挙し、最終的な合計請求額や消費税額が税率別に記載されています。これは、書面で請求書を送付する場合、納品書では記載してあった個々の明細を、請求書送付時も同封すると、結構な厚みのある書類になることもあるので、こうした請求書の体裁になっているものと思われます。
電子メールで適格簡易請求書を送付する場合、以下の(a)または(b)の方法で交付することとなります。つまり納品書記載の明細(取引内容並びに軽減税率の対象品目である旨など)を1つの請求書に記載をまとめるか、現状の書面と同様に請求書と納品書の2種類の書面を交付するか、ということになります。
(a)1つの書類(1通の適格請求書)として全ての取引内容(各品名、明細等)を転記した書類を作成する。
(b)請求書に納品書と紐づける納品番号などの記載し、納品書と請求書の2種類の書類で適格請求書とする。
(b)の場合で、メールで請求書等を送る運用を行う場合は、運用的には個々の取引ごとに納品書をメールで送付しておき、月締めの請求書の取引内容欄は各納品番号とし、その他の記載要件を全て記載したものを送付することとなります。このように適格請求書は、電子であっても1つの書類で全ての記載事項を満たす必要はなく、書類相互の関連が明瞭に認識できる方法であれば記載事項を満たすこととなります。
8.電子インボイスの保存
電子インボイス(適格請求書に係る電磁的記録)を発行した場合、電磁的記録(電子データ)のまま保存する場合は、以下の措置(新消法26の8①)で保存する必要があります。
(1)次の①又は②のいずれかの措置を行う
①電子インボイスの提供後、遅滞なく タイムスタンプを付すとともに、その電磁的記録の保存を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと(電帳規8①一)
②電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用を行うこと(電帳規8①二)
(2) システム概要書の備付けを行うこと(電帳規3①三 、8① )
(3)電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力できるようにしておくこと(電帳規3①四 、8① )
(4)適格請求書に係る電磁的記録について、次の要件を満たす検索機能を確保しておくこと(電帳規3①五 、8① )
- 取引年月日、その他の日付 、取引金額その他の主要な項目(請求年月日、請求金額、取引先名称等 )を検索条件として設定できること
- 日付 又は金額 に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること
- 二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できること
こうした保存措置を適切に運用していくことを考えると、電子インボイスの場合、(a)で示した1通にまとめる運用に切り替えた方が、おすすめです。保存義務が義務化された際に、保管管理上も利便性が高くなるためです
9.取引は電子でも請求書は書面で送付する場合
日々の取引は電子取引でも、請求書は書面で送付することも多いと思います。社印が押印された書面で請求書を送付すると、取引先の方も支払い認知度が上がると考えられていることも一因かと思います。この場合、請求書を発行した側は、書面で交付した適格請求書の写しである電子データを保存しなければなりません。書面で交付した適格請求書の写しを電子データとして保存する場合は、電子帳簿保存法の規定(電帳法4②)に沿って保存する必要があります。
10.電子インボイスの保存期間
書面で交付した適格請求書の写しや適格請求書の電磁的記録(電子インボイス)は、交付した日又は提供した日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間、納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存する必要があります。(新消令70の13①、50①)
電子で保存する際は、誤って削除することがないように、アクセス権限を適切に設定しておくか、削除できない媒体にバックアップしておくなどの運用上の工夫も組み合わせておくことで、長期間の保存管理を行えるように準備しておくことが必要になります。
11.電子インボイス推進協議会による標準化
日本の取引ネットワークの場合、大手・中堅企業間のEDIだけで取引が完結することは稀です。取引の多くは、大手・中堅企業と中小企業間又は中小企業間で行われれています。そのため電子インボイスも、大手や中堅企業グループのEDI内で取引する取引先と、EDIの取引外で、特定のクラウドサービスやメールの添付等で対応する取引先に大きく分かれます。
今後、電子インボイスが中小企業も含めて利用が盛んになると、各EDIやクラウド間をつなぐ仕組みや、商流多くの中小企業が利用している各種会計ソフトにまで連携しやすくするためのデータの標準化やデータ変換の仕組みが求められてきます。こうした背景のもと2020年7月29日「電子インボイス推進協議会*1」(EIPA:E-Invoice Promotion Association )が10社の設立発起人により発足しました。方向性としては現在でもインボイスの電子化は、既に各種サービスの利用*2が進められているので、既存サービス等を全てを1つの標準にまとめることは現実的ではありません。そのため、今後は既存サービスに加えて、国や自治体の電子調達、更には海外の電子インボイスも含めた相互連携(相互変換)できる仕組みが求められてくると思います。加えて、現実的には書面での適格請求書も継続して受領することが十分に予想されます。
そのため、これらの各種電子インボイスと、書面の適格請求書等を効率的に管理していくことが当面の課題になるはすです。EDIの場合は、保管管理も含めてプロバイダーがサービスとして提供していることが多いので支払管理は比較的楽なのですが、書面送付や電子メールによる請求書PDFを受領した場合は、記載内容を確認しつつ消費税率ごとの請求額や登録番号等をミスなく経理システムに転記入力しなければなりません。インボイスが義務化されると、もうこうした作業は、経理担当者の注意力だけでは限界になってくるはずです。コロナ禍の今だからこそ、2023年のインボイス義務化の前に、先進ソリューションの適用検討を進めてみませんか。
*1:電子インボイス推進協議会:2019年12月に発足した「社会的システム・デジタル化研究会(代表:弥生株式会社 岡本浩一郎氏)」の下部組織として2020年7月29日に下記の設立発起人のもとで発足。事務局は、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ:Computer Software Association of Japan)
https://www.csaj.jp/activity/project/eipa.html
【設立発起人:*は幹事法人】代表幹事法人:弥生株式会社*、株式会社インフォマート*、SAPジャパン株式会社*、株式会社オービックビジネスコンサルタント、株式会社スカイコム、株式会社TKC*、トレードシフトジャパン株式会社、ピー・シー・エー株式会社、株式会社マネーフォワード*、株式会社ミロク情報サービス*
【監事(敬称略)】水谷学(ピー・シー・エー株式会社 取締役相談役)、磯部和郎(税理士)
*2:既存の電子インボイス例
【国内】流通BMS、JEITA-ECALGA、(トレードシフト社などの)クラウドサービスによる電子請求書交換、中小企業共通EDI(つなぐITコンソーシアム,ITコーディネーター協会 ITCA)、XMLを組み込んだ請求書等のPDF交換(スカイコム SkyPDF など)。
【海外】OpenPEPPOL(EDI間連携)、国連CEFACTのEDI標準(CII:Cross Industry Invoice)などによる政府調達を含むEDIの実装システム
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