改正電帳法の課題、ご存知でしょうか? ~電子取引のデータ保存が義務化されました!~
来年の令和4年1月1日から施行される令和3年度の改正電子帳簿保存法では、メールなど電子取引における電子データの保存(電子保存)が義務化されます。電子メールの請求書や領収書の電子保存が義務化されることによって、事業者にはどのような影響が出てくるのでしょうか、今回は電子取引の電子保存に関する課題や対策について考えてみたいと思います。
電子帳簿保存法による電子取引とは
先ず電子帳簿保存法の第二条で定義されている「電子取引」を再確認してみましょう。電子取引の定義は下記のように記載されています。
電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(令和4年1月1日施行)
出典:e-Gov法令検索/電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(令和4年1月1日施行)
(定義)
第ニ条
五 電子取引 取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。以下同じ。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。
この電子帳簿保存法の法令内容をもう少し分かりやすく解説しているのが、電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係・令和3年7月・国税庁)ですが、その問2には下記のように記載されています。「電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含みます。)」が電子取引と明記されています。
電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】 令和3年7月 国税庁 参照先はこちら |
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問2 | 電子取引とは、どのようなものをいいますか。 |
回答 | 「電子取引」とは、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいいます(法2五)。 なお、この取引情報とは、取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいいます。 具体的には、いわゆるEDI取引、インターネット等による取引、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含みます。)、インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引等をいいます。 |
したがって、請求書等(注文書、契約書、送り状、領収書、見積書等)をシステムで作成し、これらのPDFをメールで添付し、これを授受する場合や、Amazonなどのインターネットで会社の備品等を購入し、Amazonや楽天などの購入サイトで発行された領収書PDFをダウンロードする場合などが電子取引となります。
保存が義務化される電子メールによる取引情報/PDF請求書等
今回の改正内容を新旧対照表で確認すると、下記の但し書き部分が削除されていることが分かります。
「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存」新旧対照表 | |
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電子帳簿保存法 (現行・令和3年度改正からみて旧法) | 改正電子帳簿保存法 (施行日:令和4年1月1日) |
第十条 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。ただし、財務省令で定めるところにより、当該電磁的記録を出力することにより作成した書面又は電子計算機出力マイクロフィルムを保存する場合は、この限りでない。 | 第七条 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。 |
この但し書きが無くなったことで、現行では認められているPDFの電子データを紙出力した書面での保存が、改正後となる令和4年1月1日以降は認められなくなります。そのため電子メールによる「電子取引」で授受した請求書・領収書・納品書などの取引情報は、必ず電子保存しなければならないことになります。
現在の社内の事務フローで、メールに添付された請求書等のPDFを書面に出力して保存している場合は、2021年12月31日までの「電子取引」に限っては書面での保存が可能ですが、2022年1月1日以降は必ず電子データで電子保存する運用に変更する必要があります。
では電子保存する場合は、どのような保存要件が求められるのでしょうか。メールソフトに保存しているだけではダメなのでしょうか。残念ながらメールソフトの電子保存でOKならば、課題として取り上げていません。
電子メールによる取引情報の管理はメールソフトだけでは「不十分」
電子帳簿保存法一問一答(電子取引)の問1には、電子取引の保存方法が下記のように図示されています。
赤い矢印で示したように、電子取引の取引情報の保存には、「オリジナルの電子データ」を「一定の保存要件」で電子保存しなければならない、ことが図示されています。
そのため受領したメールの請求書等にタイムスタンプが付与されていない場合は、受領者側でタイムスタンプを付与するか、電帳法の施行規則(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則)第4条第1項第4号*に定める事務処理規程に基づき「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用を行い、当該電磁的記録の保存に併せて当該規程の備付けを行う」ことが求められます。
電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則
施行日:令和4年1月1日
また電子メールで請求書や領収書等のPDFファイル等を受領した場合、オリジナルの電子データはメールソフトで電子保存されていると思いますが、電子帳簿保存法一問一答の問4には、「対象となるデータは検索できる状態で保存することが必要ですので、当該データが添付された電子メールについて、当該メールソフト上で閲覧できるだけでは十分とは言えません」と記載されています。
電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】 令和3年7月 国税庁 参照先はこちら |
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問4 | 当社は以下のような方法により仕入や経費の精算を行っていますが、データを保存しておけば出力した書面等の保存は必要ありませんか。 |
⑴ 電子メールにより請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)を受領 | |
⑵ インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)又はホームページ上に表示される請求書や領収書等のスクリーンショットを利用 | |
⑶ 電子請求書や電子領収書の授受に係るクラウドサービスを利用 | |
⑷ クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードによる支払データ、スマートフォンアプリによる決済データ等を活用したクラウドサービスを利用 | |
⑸ 特定の取引に係るEDIシステムを利用 | |
⑹ ペーパレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用 | |
⑺ 請求書や領収書等のデータをDVD等の記録媒体を介して受領 | |
回答 | ⑴~⑺のいずれも「電子取引」(法2五)に該当すると考えられますので、所定の方法により取引情報(請求書や領収書等に通常記載される日付、取引先、金額等の情報)に係るデータを保存しなければなりません(令和3年度の税制改正前はそのデータを出力した書面等により保存することも認められていましたが、改正後は、当該出力した書面等の保存措置が廃止され、当該出力した書面等は、保存書類(国税関係書類以外の書類)として取り扱わないこととされました。 データ保存に当たっては、以下の点に留意が必要です。 |
イ ⑴及び⑵については一般的に受領者側におけるデータの訂正削除が可能と考えますので、受領したデータに規則第4条第1項第1号のタイムスタンプの付与が行われていない場合には、受領者側でタイムスタンプを付与すること又は同項4号に定める事務処理規程に基づき、適切にデータを管理することが必要です。また、対象となるデータは検索できる状態で保存することが必要ですので、当該データが添付された電子メールについて、当該メールソフト上で閲覧できるだけでは十分とは言えません。 | |
ロ ⑶~⑸については、取引情報(請求書や領収書等に通常記載される日付、取引先、金額等の情報)に係るデータについて、訂正削除の記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用していれば、電子取引の保存に係る要件を満たすと考えられます。他方、例えば、クラウド上で一時的に保存されたデータをダウンロードして保存するようなシステムの場合には、イと同様の点に留意する必要があります。 | |
ハ ⑹及び⑺については、一般的に受領者側におけるデータの訂正削除が可能と考えますので、受領したデータに規則第4条第1項第1号のタイムスタンプの付与が行われていない場合には、受領者側でタイムスタンプを付与すること又は同項第4号に定める事務処理規程に基づき、適切にデータを管理することが必要です。 | |
ニ ⑴~⑺のいずれの場合においても、データは各税法に定められた保存期間が満了するまで保存する必要があります。 | |
ホ 取引慣行や社内のルール等により、データとは別に書面の請求書や領収書等を原本として受領している場合は、その原本(書面)を保存する必要があります。 | |
ヘ 現行、消費税の仕入税額控除の適用に当たっては、必要な事項が記載された帳簿及び請求書等(書面)の保存が必要ですが、取引金額が3万円未満の場合や、3万円以上でも「電子取引」のようにデータのみが提供されるなど、書面での請求書等の交付を受けなかったことにやむを得ない理由がある場合には、帳簿のみを保存することにより仕入税額控除の適用を受けることができます。なお、令和5年10月以降は、帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受けることができるのは、法令に規定された取引に限られることとなります。 | |
したがって、「電子取引」を行った場合に仕入税額控除の適用を受けるためには、軽減税率の対象品目である旨や税率ごとに合計した対価の額など適格請求書等として必要な事項を満たすデータ(電子インボイス)の保存が必要となります。 また、電子取引の取引情報に係る電磁的記録を出力した書面等については、保存書類(国税関係書類以外の書類)として取り扱わないこととされましたが、消費税法上、電子インボイスを整然とした形式及び明瞭な状態で出力した書面を保存した場合には、仕入税額控除の適用を受けることができます。 |
更に「回答のニ」には「データは各税法に定められた保存期間が満了するまで保存する必要があります」とあります。この保存期間というのは7年間*です。つまり長期間の電子保存が必須となります。
*「法人が、取引情報の授受を電磁的方式によって行う電子取引をした場合には、原則としてその電磁的記録(電子データ)をその事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する必要があります。」
出典:国税庁タックスアンサー(よくある税の質問)法人税 No.5930 帳簿書類等の保存期間及び保存方法
[令和2年4月1日現在法令等]
なお法人税法及び所得税法では、問4のとおり電子取引による電子データは、電子保存が必須となりますが、消費税法の仕入税額控除の適用を受ける場合は、現行通り電子取引の電子データ(電子インボイス)を整然かつ明瞭な状態で書面(紙)に出力することは認められます。もちろん書面をスキャンしてスキャナ保存要件を満たす電子保存を行うことも可能ですが、実質的に法人税・所得税法上、請求書や領収書等の電子データは、7年間、電子保存せざるを得ないことになります。更に今後はPeppolによる電子インボイスの利用も想定されます。こうなるともはや、新たな電子保存システムは確立しなくてはならないことが喫緊の課題だと思います。
電子メールにおける電子取引データの保存方法
では次に請求書・領収書等のPDFにおける「当該データが添付された電子メールについて、当該メールソフト上で閲覧できるだけでは十分とは言えません」というのであれば、どういった電子保存が求められているのでしょうか。電子取引による保存要件(電子保存の必要要件)を下表にまとめました。
分類 | 電子取引の保存要件 (下線部が今回の改正電子帳簿保存法による変更要件になります) |
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A.真実性の要件 | 以下の①~④の措置のいずれかを行うこと | |
① | タイムスタンプが付された後、取引情報の授受を行う | |
② | 取引情報の授受後、速やかに(*又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付すとともに、保存を行う者又は監督者に関する情報を確認できるようにしておく *括弧書の取扱いは、取引情報の授受から当該記録事項にタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限る。 |
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③ | 記録事項の訂正・削除を行った場合に、これらの事実及び内容を確認できるシステム又は記録事項の訂正・削除を行うことができないシステムで取引情報の授受及び保存を行う。 | |
④ | 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿った運用を行う。 | |
B.可視性の要件 | 保存場所に、電子計算機(パソコン等)、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、画面・書面に整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと。 | |
電子計算機処理システムの概要書を備え付けること | ||
検索機能※を確保すること。 | ||
※下記の帳簿の検索要件①~③に相当する要件 (ダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には②③は不要) |
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① | 取引年月日、勘定科目、取引金額その他のその帳簿の種類に応じた主要な記録項目により検索できること ⇒改正後の記録項目:取引年月日、取引金額、取引先に限定 |
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② | 日付又は金額の範囲指定により検索できること | |
③ | 二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること | |
保存義務者が小規模な事業者でダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、上記の検索機能は不要 |
(1)真実性の要件を満たす対応
分類Aの真実性の要件は、Aの①~④のいずれかの措置を行えば良いのですが、自社も取引先もタイムスタンプを利用していない場合は、Aの①と②は除外されます。③の訂正・削除の内容を確認できるシステム又は訂正・削除ができないシステムは、第三者性が求められます。現実的には電子帳簿保存法に対応したクラウドサービス等を利用することが一般的となります。
そのためタイムスタンプによる運用も電子帳簿保存法に対応したクラウドサービス等も利用していない状態で、電子メールによる電子取引を実施する場合は、④の要件で対応することになります。
この④の事務処理規程は、国税庁から雛形が提示されています。以下のリンクから事務処理規程のサンプルとなるWord文書がダウンロードできます。
電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程(法人の例)(Word/16KB)
この事務処理規程を採用した場合の課題は、こうした事務処理規程が自社で運用できるのか、ということです。
(訂正削除を行う場合)
第9条 業務処理上やむを得ない理由によって保存する取引関係情報を訂正または削除する場合は、処理責任者は「取引情報訂正・削除申請書」に以下の内容を記載の上、管理責任者へ提出すること。
一 申請日
二 取引伝票番号
三 取引件名
四 取引先名
五 訂正・削除日付
六 訂正・削除内容
七 訂正・削除理由
八 処理担当者名
2 管理責任者は、「取引情報訂正・削除申請書」の提出を受けた場合は、正当な理由があると認める場合のみ承認する。
真実性④の事務処理規程で対応する場合、単に事務処理規程を作成すれば済むということではありません。訂正・削除を行う場合、サンプル規程の第9条に記載されたように、伝票番号ごとに訂正・削除理由を記録し、その承認行為の正当性まで担保し得る体制や証跡管理が必要で、こうした運用が可能なのか、という点が事前に検討すべき課題になります。
(2)可視性の要件を満たす対応
分類Bの可視性の要件で、電子取引を行う際に「電子計算機(パソコン等)、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアル、システム概要書等を備え付ける」ことについては問題ないと思います。実質的にクリアすべき可視性の要件は、検索機能となります。
検索機能で求められる要件は、帳簿の検索要件と同様ですが、ダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合は、検索要件②と③は不要なので、最低限の検索要件としては、①の「取引年月日」「取引金額」「取引先」の記録項目により検索できることが求められています。
電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係・令和3年7月・国税庁)問33では、保存要件に対応したクラウドサービス等(電子保存システム等)を利用しない場合で、「検索要件を確保する方法」が2例、示されています。
電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】 令和3年7月 国税庁 参照先はこちら |
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問33 | 当社には電子取引の取引データを保存するシステムがありませんが、電子取引の取引データを保存する際の検索機能の確保の要件について、どのような方法をとれば要件を満たすこととなりますか。 |
回答 | 電子取引の取引情報に係る電磁的記録(電子取引の取引データ)を保存するシステムがない場合に検索機能の確保の要件を満たす方法としては、例えば、エクセル等の表計算ソフトにより、取引データに係る取引年月日その他の日付、取引金額、取引先の情報を入力して一覧表を作成することにより、当該エクセル等の機能により、入力された項目間で範囲指定、二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件設定をすることが可能な状態であれば、検索機能の確保の要件を満たすものと考えられます。 その他、当該保存すべき取引データについて、税務職員のダウンロードの求めに応じることができるようにしておき、当該取引データのファイル名を「取引年月日その他の日付」、「取引金額」、「取引先」を含み、統一した順序で入力しておくことで、取引年月日その他の日付、取引金額、取引先を検索の条件として設定することができるため、検索機能の確保の要件を満たすものと考えられます。 |
ファイル名には①、②、・・・と通し番号を入力する。 エクセル等により以下の表を作成する。 |
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2022 年(令和4年)11 月30 日付の株式会社霞商事からの20,000 円の請求書データの場合 ⇒ 「20221130_㈱霞商事_20,000」) ※ 取引年月日その他の日付は和暦でも西暦でも構いませんが、混在は抽出機能の妨げとなることから、どちらかに統一して入力していただく必要があります。 |
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解説 | 検索機能については、規則第2条第6項第6号で定められているとおり、①取引年月日その他の日付、取引金額、取引先を検索の条件として設定することができること②日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること③二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること、の3つの要件が求められています。 |
そこで、電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存するための専用のソフトウェア等を使用していない場合でも、例えば、エクセル等の表計算ソフトにより、取引データに係る取引年月日その他の日付、取引金額、取引先の情報を入力した一覧表を作成することにより、エクセル等の表計算ソフトの機能によって、入力された項目間で範囲指定、2項目以上の組み合わせで条件設定の上抽出が可能であれば、上記①~③のいずれの機能も満たすものと考えられます。 | |
この方法により保存する場合には、エクセル等の表計算ソフトの一覧表の通し番号を付すなどして、一覧表から取引データを検索できるようにする必要があります。 |
電子帳簿保存法問33で示されたこの2例は、表計算ソフトを使用し「一覧表の作成により検索機能を満たそうとする例」と、「ファイル名の入力により検索機能を満たそうとする例」となります。
電子メール等オリジナルな電子取引の電子保存を行う場合、真実性の要件による④の事務処理規程を選択し、クラウドサービス等の保存システム(電磁的記録を保存するための専用のソフトウェア等)を利用しない場合、Bの可視性の要件では、検索要件の①に対応するため、表計算ソフトによる一覧表を作成するなどの「新たな手作業が必要」になる可能性があることが分かります。
そのためこうした電子メールの電子取引に対応する場合、電子帳簿保存法の機能要件を満たすクラウドサービス等を利用せず真実性の要件の④の事務処理規程で実質運用できるのか、可視性の要件の検索要件を満たす一覧表等を作成し続ける運用が可能なのか、ということを取引フローに照らして検討しておく必要があります。またこうした課題への対応は、実績のない自社独自の運用で対応すると、税務調査を受けた際にリスクが残ります。
保存要件を満たせない場合の税務調査
仮に、事務処理規程を作成したものの、検索要件等を満たすような専用ソフトウェア(クラウド等)も利用せず、表計算ソフトによる一覧表等では実態の運用も回らず検索要件が満たせなかった場合は、どうなるでしょうか。電子帳簿保存法一問一答の問42を見てみましょう。
電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】 令和3年7月 国税庁 参照先はこちら |
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問42 | 電子取引の |
回答 | 令和4年1月1日以後に行う電子取引の取引情報に係る電磁的記録については、その電磁的記録を出力した書面等による保存をもって、当該電磁的記録の保存に代えることはできません。 したがって、災害等による事情がなく、その電磁的記録が保存要件に従って保存されていない場合は、青色申告の承認の取消対象となり得ます。 なお、青色申告の承認の取消しについては、違反の程度等を総合勘案の上、真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められるかどうか等を検討した上、その適用を判断しています。 また、その電磁的記録を要件に従って保存していない場合やその電磁的記録を出力した書面等を保存している場合については、その電磁的記録や書面等は、国税関係書類以外の書類とみなされません。 ただし、その申告内容の適正性については、税務調査において、納税者からの追加的な説明や資料提出、取引先の情報等を総合勘案して確認することとなります。 |
解説 | 電子取引の取引情報に係る電磁的記録については、法第7条の規定により保存義務が課されていることから、その電磁的記録を保存する必要があります。そして、電子取引の取引情報に係る電磁的記録について要件を満たさず保存している場合や、その電磁的記録の保存に代えて書面出力を行っていた場合(※)には、保存すべき電磁的記録の保存がなかったものとして、青色申告の承認の取消の対象となり得ますので注意してください。 ※ 令和3年度の税制改正前の電子取引の取引情報に係る電磁的記録を書面等に出力することにより保存を認める取扱いは廃止されています。 なお、青色申告の承認の取消しについては、「個人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」に基づき、真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められるかどうか等を検討した上で行うこととしています。 また、電磁的記録を要件に従って保存していない場合やその電磁的記録を出力した書面を保存している場合において、その要件に従って保存がされていない電磁的記録や出力した書面等については、他者から受領した電子データとの同一性が担保されないことから国税関係書類以外の書類とみなされません。 ただし、その申告内容の適正性については、税務調査において納税者からの追加的な説明や資料提出、取引先の情報等を総合勘案して確認することとなります。 なお、消費税に係る保存義務者が行う電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存については、その保存の有無が税額計算に影響を及ぼすことなどを勘案して、改正後も引き続き、その電磁的記録を出力した書面による保存が可能とされています。 |
問一答問42の回答を見ると、真の課題は、事業者が新たなIT投資をせざるを得ない環境になっている、ということに気づくと思います。この回答は青色申告者を例にとっていますが、大企業でも税務調査の観点からは同じことが言えます。電磁的記録を要件に従って保存していない場合、その電磁的記録は、国税関係書類以外の書類(電子取引情報)とみなされないため、法人税並びに所得税法の法的要件を満たせず、仕訳から一件ずつ見直すなど多大な作業が発生してしまいます。仮に所轄の税務署に総合勘案してもらっても法的要件を満たせないリスクが残るならば、法的要件を満たすIT投資を重ねていくしかない、これが事業者側に迫られた課題です。
長期間電子保存できるクラウドソリューションを選びましょう
電子メールによる電子取引のデータを、今までは紙に出力していた事業者が、令和4年1月1日から電子保存に変えて7年間保存・管理するのは、容易なことではありません。
しかも今回の改正対応は、運用フローを切り替えるまでの時間がほとんどありません。ほとんどない、という意味は、自社の運用変更には、決算を経たリハーサル期間が必須だからです。仮に訂正・削除の防止に関する事務処理規程を備え付けて電子保存を行う場合は、運用リハーサルを実施し、本当にその運用フローが回りそうなのか、この点を現場担当者の意見も何度もヒアリングしながら進めていかないと実際の現場は回りません。
一方で会計ベンダ側も、今回の改正電子帳簿保存法に合わせてJIIMA認証*を取得していく動きが見えます。JIIMAのホームページで「電子取引ソフト法的要件認証製品一覧*」を確認してみると、ここ数か月で続々と認証製品が増えていることが分かります。実は「電子取引ソフト」の認証は、2021年の6月初旬までは対応製品がゼロでした。現在掲載されている電子取引ソフトの認証有効期限が、全て3年後の2024年6月以降となっていることから、今年の6月以降に会計ベンダ側も大急ぎで対応し始めたことが伺えます。
*公益社団法人 日本文書情報マネジメント協会(Japan Image and Information Management Association)
コロナ禍の中、電子メールの請求書等の処理のために新たな手作業を増やしてはDXの意味がありません。新たな運用がテレワーク推進の妨げにならないのか、更には、こうした見直し内容が長期間にわたって維持できそうなのか、費用や社内体制等も勘案しつつ各社のソリューションを選定することが重要です。またこうした検討にはRPAの適用も是非入れてください。経理業務のような定型業務をこなすにはRPAやAIソリューションの適用が効果的です。特にRPAは利用者部門でも改修できることが多いので、この機会にチャレンジすることをお勧めします。
もちろん当社のAI及びRPAソリューションは、貴社の新たな経理業務の運用に必ず役立っていくと思います。是非お気軽にお問い合わせください。