デジタルインボイスの普及で変わる売掛業務・支払業務

  • デジタルインボイス(Peppol)

1.日本国内におけるデジタルインボイスの状況

背景

去る2022年10月28日に日本におけるデジタルインボイスの標準仕様Peppol BIS Standard Invoice JP PINT (JP PINT)のVersion 1.0が公開※1されました。このJP PINTは、官民連携のもと、デジタル庁により、欧州を拠点にした国際的な非営利組織であるOpenPeppolが管理運用するグローバルな標準仕様であるPeppolをベースに事業者のバックオフィス業務のデジタル完結による効率化の実現を目指して策定されたものです。※2

2023年10月施行の改正消費税法によって、適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度が導入されます。この改正により現在の区分記載請求書等に代えて適格請求書等の保存が仕入税額控除を行うための要件となりました。適格請求書発行事業者として登録された事業者から発行され、かつ、記載事項の要件を満たした適格請求書のみが仕入税額控除の対象となり、それ以外の請求書では仕入税額控除が受けられなくなるのです。

この適格請求書の導入により、請求書への記載、受け手から見れば確認すべき項目が増加するため、売り手側の売掛金の請求書発行業務、買い手側の買掛金の請求書受け取りおよび支払業務のどちらも大きく影響を受けると予想されています。売掛請求業務、買掛支払業務のデジタル化を実現できるJP PINTおよびPeppolには、この課題を解決する手段として、非常に大きな期待が寄せられています。適格請求書発行事業者登録番号を持っている事業者が、Peppolネットワークを利用し、JP PINTのフォーマットに従ったデジタルインボイスを送受信することで、適格請求書による請求業務、受け取り業務を実現できるのです。

※1. Release notes for PEPPOL BIS Standard Invoice JP PINT
※2. JP PINT | デジタル庁

Peppolの仕組み

JP PINTがベースにしているPeppolは4コーナーモデルと呼ばれる仕組みで運用されています。その名の通り、コーナー1 (C1)からコーナー4(C4)まで4つのコーナーがあるモデルです。まず、送り手がC1からC2の送り手側のアクセスポイントにデジタルインボイスを送付します。その次にそのデータはC2から受け手側のアクセスポイントであるC3に転送されます。最後に、受け手はC4でC3からのデジタルインボイスを受けとります。

※3

要となるC2およびC3のアクセスポイントはどちらもOpenPeppolにより認定されたPeppol Service Providerによって運用され、C1からC4に安全にデータを送付する仕組みが整っています。日本国内においては、2023年1月20日現在、国内企業7社を含む22社がPeppol Service Providerとして認定されています。※4 すでにPeppolを長く運用しているヨーロッパ各国やシンガポール、オーストラリア、ニュージーランドといった国では、C1およびC4は請求書送付サービスや請求書受信サービスの事業者が提供するケースが多いようです。日本においても会計関連のソフトウェアやクラウドサービスを提供する企業が続々とサービス提供することを表明しています。

実際にデジタルインボイスを送受信する企業は、上記のようなC1およびC4の機能を提供するこれらのソフトウェア企業やクラウドサービス事業者と契約することで、このPeppolの仕組みを利用することが可能です。もしくは、C1やC4に該当する機能を自社で開発し運用することもできます。さらには認定を受け維持するというハードルはありますが、自ら認定Peppol Service Providerになり、アクセスポイントまで含めて運用することも可能です。

※3. デジタルインボイス推進協議会 WEBサイトより引用
※4. 日本における認定 Peppol Service Provider 一覧

2.デジタルインボイス導入のメリット

このように日本国内において仕組みとして整い始めたデジタルインボイスですが、活用する事業者にはどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。請求書を送付する側の請求業務、請求書を受領する側の受け取り支払業務、それぞれにおけるメリットを見ていきたいと思います。

請求業務でのメリット

最初は請求書を発行/送付する請求業務においてデジタルインボイスを導入するメリットです。これまで請求書を送付する手段として郵送が多く用いられてきました。また2020年に始まったコロナ禍において、請求書をPDFファイルにしてメールに添付するという送付方法も拡がってきたと筆者としては実感しています。

これらの送付手段ではいくつか課題がありました。まず郵送においてはそのコストです。郵便は安価な書類の送付方法ではありますが、これが数多く送付することになるとその切手代は決して無視できないコストになってきます。また実際に少なからず物流が発生する点、紙を用いることで森林資源を利用するという点から、地球温暖化に悪影響をもたらすことも懸念されるところです。さらに郵送、メールを問わず、請求書の宛先と違った送付先に送ってしまうといった事故も大きな懸念点として挙げられます。このような間違いは売り手企業の営業面に大きな影響をもたらしてしまいます。送付先に間違いがないかを確認するための作業は多くの労力がかかり、また人のやることなので100%間違いないようにするのは困難です。このようにこれまでの送付手段はコスト面、環境面、情報セキュリティ面において課題をはらんだものであると言えます。

デジタルインボイスを導入するとこれらの課題を解決することに繋がります。紙への印刷は不要になり物流もありませんので環境面への負荷は抑えられそうです。またコストも郵送に比べると限定的なものになるでしょう。宛先の間違いという点についてもデジタル化することでコンピュータによるチェックの自動化を実現できます。

請求業務でのデジタルインボイスの導入はこのように大きなメリットをもたらすものになります。

請求書受け取り業務でのメリット

次に受け取り業務でデジタルインボイスを導入するメリットを見ていきましょう。インボイス制度が開始されると受け取った請求書が適格請求書であるかどうかを確認するプロセスが受け取り側で必要になります。上に書いたように適格請求書でない場合は仕入税額控除を受けることができないからです。

このため、適格請求書発行事業者登録番号の記載があるか、納品物ごとの納品日が明記されているか、適用税率ごとにその合計金額と適用税率の記載があるか、税率ごとに区分した消費税額等の記載があるか、といった点の確認が必要になってきます。※5 人手によるチェックを行う場合、これまで以上に時間と労力が必要になってくるのは容易に想像できます。

デジタルインボイスの導入によって、これらの業務負荷は大きく軽減できそうです。JP PINTでは請求書を送付する段階で、その内容がルールに沿っているかを、C2を担うPeppol Service Providerがチェックすることが必須になっています。これにより、届いた請求書はこれら適格請求書に必要な条件が満たされていることが担保されていることになります。また郵便で届いた場合は、開封作業や担当者への社内での配布作業など様々な手続きが必要でした。これらは言わば見えないコストです。そういった見えないコストも考慮すると、デジタルインボイスを導入することで、これまで以上に効率的に請求書の受け取り業務を行うことができるようになるでしょう。

またこの受取業務においては、今後、紙の請求書、PDFによる請求書、デジタルインボイスがしばらく混在する期間が続きます。これらを一括して集約管理し、インボイス制度や電子帳簿保存法に対応ができるようなサービスを利用すれば、その受領する手段によって現場のオペレーションを変える必要がなく、効率的に質の高い業務を維持することができるものと思われます。

このように、送付側と同様に受け取り側でもデジタルインボイスの導入は大きなメリットをもたらします。

※5. 国税庁 適格請求書等保存方式 (インボイス制度)の手引き

ネットワーク効果

さらにメリットとしてあげられるのがネットワーク効果です。これは、Peppolを使ってデジタルインボイスの送受信をする事業者が増えれば増えるほど、その利用者のメリットも大きくなるというものです。日本企業の生産性は高いものではないという指摘を目にする機会も少なくありませんが、より多くの事業者がデジタルインボイスを活用することでその生産性の向上に寄与することが容易に想像できるのではないでしょうか。

またJP PINTによる適格請求書だけでなく、現在、日本における仕入明細書(JP BIS Self Billing Invoice)のドラフト版も公開されています。※6 これは支払側が請求書をもらうのではなく、支払額を買い手側に通知するためのもので支払通知書とも呼ばれ、大手企業が買い手である場合によく利用されるものです。さらにヨーロッパでは、注文書や物流情報もPeppolの仕様として公開されています。

Peppolというネットワークに参加することで請求書だけでなく広い範囲でのビジネス文書のやりとりが可能になり、その恩恵は多岐に渡ることをご理解いただけるのではないでしょうか。

※6. JP BIS Self Billing Invoice

3.おわりに

これまで見てきましたように、2022年10月に日本に導入されたJP PINTおよびPeppolは、それを活用することで大きなメリットを事業者にもたらすことができます。

2023年のインボイス制度開始に向けて、請求書送付業務および受け取り業務をどのように効率化することができるか今一度見直してみていただき、デジタルインボイスの導入を検討されてみてはいかがでしょうか。

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