導入事例 味の素フィナンシャル・ソリューションズ株式会社様
味の素フィナンシャル・ソリューションズ株式会社(以下、味の素フィナンシャル・ソリューションズ)は、味の素株式会社のグローバル財務部と連携し、味の素グループにおける財務経理部門の一体運営を行っている。すでに、味の素グループ7社※1の財務経理業務を集約し、機能別組織化によるOE推進※2、DXの活用、外部との協業により強固な業務基盤実現を推進している。グループ全体のパーパスである「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」を実現するために、経理財務領域でのプロフェッショナルな仕事を通じて顧客に高い価値を提供する。定型的な会計業務は外部化しつつ、国内グループ会社の経理業務の標準化およびDXを推進する中、インボイス制度開始に向けた対応のため、Concur Invoiceの刷新と、ファーストアカウンティングのRemota※3を導入した。今回、同社のプロジェクトの中心となった会計企画部マネージャーの木田啓太氏と会計企画部の柏木良太氏にお話を伺った。
※1:2023年9月時点:味の素㈱、味の素食品株式会社、株式会社味の素コミュニケーションズ、北海道味の素株式会社、味の素AGF株式会社、味の素ヘルシーサプライ株式会社、沖縄味の素株式会社の7社。
※2:OE(Operational Excellence)とは、一般的に企業がその価値創造のための事業活動の効果・効率を高めることで競争上の優位性を構築し、徹底的に磨き上げることを指す
※3:経理業務に特化したプラットフォームであるファーストアカウンティングのAIソリューション。AI-OCRの機能で証憑を読み取るだけではなく、AIが最適な勘定科目の類推やインボイス制度・電帳法に関する確認をし、ERPやワークフローと連携することで、経理の一連の業務を自動化することができる。
背景・課題
グループの標準化と業務効率化を目指して
味の素フィナンシャル・ソリューションズは、味の素グループ各社に財務経理のシェアードサービスを展開する上で3つの課題を抱えていた。1つ目は、グループ会社内で利用しているITシステムや利用方法が各社バラバラであり、システムや利用手順を整理して標準化する必要があったこと。2つ目は、国内のBPOへ委託している定型的な会計業務は、手作業によるデータ登録作業が中心となっており、手入力の負荷を軽減させたいということ。3つ目は、2023年10月に施行が決まっていたインボイス制度への対応が迫られていたことだ。
「今後グループ企業の業務を戦略的にBPOに集約していくにあたり、現行運用のまま集約・拡大していくことはコスト面、労傾面で負荷が高く、大きな課題でした。グループ企業への展開に向けた業務整備や、BPOにおける手入力の負荷の軽減は急務であり、インボイス制度への対応も含めて一挙に解決したいと考えました」と木田氏は振り返る。2022年4月から予算化ののち課題の抽出を行い、同年8月から本格的にプロジェクトが始動。味の素フィナンシャル・ソリューションズと味の素㈱ DX推進部と定例会を開始して、プロジェクトを推進した。
味の素㈱は2018年にConcur Expenseを、2019年にConcur Invoiceを導入している。しかし、Concur Invoiceは会計システムとは連携しておらず、請求書入力の依頼票を現場からBPOに受け渡し、タイムスタンプを付与するためだけに使われていた。具体的には、現場が請求書と依頼票をConcur Invoiceに添付し、受け取ったBPO側が目視で確認しながら会計システムに仕訳を手入力する。入力後の承認や各種手続きも手作業のため、時間がかかり、人為的なミスも発生しがちだった。
そこで同社は、Concur Invoiceと会計システムの間にインターフェースの仕組みを構築し、OCRを組み込んで請求書の読み込みをスマートにすれば、手入力のプロセスを大きく改善できると判断した。
グループ各社のシステムや利用手順の標準化
BPOの手作業による負荷軽減
インボイス制度への対応
選定・導入
現場やシステム会社の協力でリソース不足を乗り越え標準化を推進
OCRの選定については複数の会社を比較検討した。グループ関連会社の情報システム会社であるNRIシステムテクノ株式会社に協力してもらい、複数を比較検討した結果、ファーストアカウンティングのソリューション性能が優れていたこと、特許技術により、適格請求書発行事業者登録番号の妥当性を自動確認できるといったインボイス制度に対応していることが決め手となり、Remotaの導入が決定した。
プロジェクトでは、Remotaを導入することでAI-OCRによる請求書の読み込みを実現し、BPOによる手入力の負荷を削減。また、Concur InvoiceからSAPまたはSuperStreamにインターフェースで自動連携される仕組みをつくることで自動化し、申請者の手間を減らすためにフローの最適化を行った。
プロジェクトは、木田氏と柏木氏がPM/PMOとして専任となり、それ以外のメンバーは既存業務との並行だったため、リソース不足の心配もあったという。臨時メンバーに入ってもらったり、前述のNRIシステムテクノ㈱に技術面をフォローしてもらったりしながら乗り越えた。また、グループ7社へ導入する際には、先発組、後発組と段階を踏むことでスケジュールが重複しないように工夫した。
専属チームを組まないことは困難な面もある一方で、メリットもあったという。「設計開発の早い段階から現場の実務者に入ってもらうことで、運用開始後の保守がスムーズに機能しました。PMO以外に担当リーダーを設け、その方たちを中心に設計検討・実行できたことも良かった」と木田氏はいう。
新しいシステムを導入すると、業務フローが変わるなど、現場から反対の声が上がることは避けられない。それに対して柏木氏は、「それはもちろんありましたが、インボイス制度施行開始というゴールが明確に定まっていたこと、さらにトップマネジメントのコミットメントがあったことが大いに推進力になりました。やはり、こういったプロジェクトにはトップダウンも不可欠です。財務部門だけではなく、システム部門の味の素㈱の経営会議メンバーも巻き込みながら、各課題を合意形成する定例会を毎月実施できたのは良かったです」と語った。
木田氏も、「RemotaとConcur Invoiceの組み合わせであればグループ標準で展開できますが、導入しないと判断すれば、自分たちでゼロから考え構築しなければなりません。また、RemotaのAI-OCRで請求書を読み込めば、手作業が削減できると現場のリアクションをポジティブに変えていきました。味の素㈱の経営層も『味の素グループ』という言葉を使っており、親会社の仕様に一方的に合わせるのではなく、『グループとして標準化したものを水平展開する』という一貫した考えのもと進めたことも現場の理解を得る上でプラスに作用しました」と言葉を継いだ。
プロジェクトが発足してから、各会社の機能選定など、ユーザー要件が定まらないという困難な局面もあった。「そんなとき、NRIシステムテクノ㈱と、ファーストアカウンティングのCS(カスタマーサクセス)チームが迅速に動き、サポートしてくれました。見切り発車でのスタートでしたが、ユーザー側の要望とインプリベンダー側のシステム設計を根気強く丁寧に調整いただけて大変心強かったです。特に、CSチームなしではオンスケジュールの導入は決してできませんでした」と、木田氏はCSのサポートを高く評価した。
現場の実務担当者やグループ会社を早い段階から巻き込む
トップダウンのコミットメント
本社の仕様に合わせるのではなく、グループの標準をつくるという考え方
導入効果
BPO作業時間を約3割削減、心理的負担も軽減。
本プロジェクトでは、グループの7社(味の素㈱、味の素食品㈱、㈱味の素コミュニケーションズ、北海道味の素㈱、味の素AGF㈱、味の素ヘルシーサプライ㈱、味の素フィナンシャル・ソリューションズ)にRemotaとConcur Invoiceを導入。Concur Invoiceを使用する7社の請求書が月に約10,000~11,000件発生しており、そのうちの約7割がConcur Invoiceから各会計システムにインターフェースで自動化された。また、全体の20~30%である月3,000枚程度がRemotaを介して処理されている。システム導入の結果、BPOの作業時間は3割ほど減少し、結果としてBPOの委託料も削減できた。
また、グループ7社の業務フローの整理ができたことは、プロジェクトの定性的な効果だといえる。承認が何段階も必要なフローや、過剰な入力項目などは見直して減らすことができた。さらに、「『会社宛ての手書き領収証』や『自署』など、法律上、商慣習上は既に不要となっていたものの、昔ながらのルールが生き続けており、古い慣習を見直す良い契機となりました。また、今回のプロジェクトを通して、効率化や業務の改善について議論する土壌が社内で生まれたことも副次的な効果だといえます。委託先であるトランスコスモス㈱の長崎BPOセンターの皆さんとも積極的にコミュニケーションすることで、いい関係性を築くことができ、プロジェクトが完了した後も、改善について相談できる環境ができたと感じています」と木田氏は語った。
BPOセンターからもポジティブな声が上がっていると柏木氏はいう。「手作業の部分がなくなることで、間違えてはいけないという心理的な不安がかなり少なくなったと聞いています。以前は、PDFを印刷し、画面と見比べてダブルチェックしていましたが、手作業だとどうしても間違いが発生しがちなので、自動化できて良かったと感じた点です。」
定型業務のBPO作業時間を3割削減
手作業が減ることによる心理的な負担も軽減
グループの業務フローや古い慣習を見直し、整理できた
改善や効率化について議論の土壌ができた
今後の課題と展望
より戦略的な作業にシフトし、さらなる標準化を推進
本プロジェクトの最も大きな成功要因は、関係する多くのチームとの連携にこそあったと木田氏は振り返る。グループ各社の関連部門や現場の実務者、NRIシステムテクノ㈱、そしてBPOセンターと密に連携して協力できたからこそ標準化への改革が大きく前進したのだ。グループとして定型的な業務やプロセスを標準化し、効率化したことで、より戦略的な業務や高度な業務に集中できる環境ができた。
今後は、導入後に見えた新しい課題の解決に向けてより精度を上げていく。グループ内の複数社で使用するに当たり、取引先マスターがグループ会社間で整合が取れていない点や仕訳AIにおいてグループ会社によって勘定科目が異なること、経理担当者以外は類推された5つの勘定科目から正しい勘定科目を選択することが難しい点など課題はまだある。現在は、自社以外の勘定科目がシステム上に表示されることもあり、グループ間の整合性において運用フォローが必要だ。ConcurとRemotaがAPIで繋がっているので、管理粒度は合わせつつ、勘定科目などは会社単位で絞れるような仕様に期待する。
また、同社はインボイスなどをインターネット上でやり取りするための国際規格、Peppol(ペポル)にも大きな期待を寄せる。味の素グループとしても、まずは国内グループ内でやり取りする内々の請求書から、Peppolの是非の検証を進めていく予定だ。今後も標準化、効率化を積極的に推進し、将来的には、請求書業務そのものがなくなることを目指している。
仕訳AIやマスターの精度向上
さらなる標準化、効率化の推進とPeppolの利用
記事の内容は、2024年2月29日時点での情報です。